数列の単調に関して以下が定義である。
【定義】
数列\(\left\{a_{n}\right\}\)において、全ての\(n\)について、\(a_{n} \leq a_{n+1}\)であるならば、その数列は単調増加である。同様にして、全ての\(n\)について、\(a_{n} \ge a_{n+1}\)であるならば、その数列は単調減少である。数列が単調増加あるいは単調減少であるならば、それは単調であるという。
例)
数列\(\left\{n\right\}\ \ \ \ \cdots \cdots\) 単調増加 数列\(\left\{\dfrac{1}{n}\right\}\ \ \ \ \cdots \cdots\) 単調減少 数列\(\left\{1\right\}\ \ \ \ \cdots \cdots\) 単調増加でもあり単調減少でもある。全ての\(n\)について\(a_{n} = 1\)とした数列。
〘単調収束定理<monotone convergence theorem>〙
数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が単調であると仮定する。そうであれば、数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が有界であるならば、かつ、その時にのみ、その数列は収束する。さらに、
\(\bullet\) 数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が増加し続けているならば、その数列は\(\infty\)へ発散するか、上限(最小上界)に収束する、すなわち\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} = \sup \left(\left\{a_{n}: n \in \mathbb{N}\right\}\right)\)
\(\bullet\) 数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が減少し続けているならば、その数列は\(-\infty\)へ発散するか、下限(最大下界)に収束する、すなわち\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} = \inf \left(\left\{a_{n}: n \in \mathbb{N}\right\}\right)\)
上限、下限は集合で考えるので、それぞれを表す( )の中は数列が取る集合を表現している。さて、証明しようと思うが、まずは俯瞰しておこう。今、数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が単調的に増加し続けていると仮定する。その数列が有界でないならば、任意の\(M \gt 0\)が与えられたとき、それは上界とはならない。なぜなら、数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が実際に増加し続けているので、\(M\)を超えてゆく。ゆえに、単調に増加する数列は有界でないならば、ひとたび、ある数を超えてゆくと、さらに、また、ある数を超えてゆくことになる。
次に、数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が有界であるなら、そうであれば、その数列は、ある値に近づかなくてはならない。単調に増加するのであるから、有界であれば、数列は減少することもできず、ある値を駆け上がることもできない。すなわち、ある値、この場合には上限に近づく。単調減少の場合も上の議論を用いて、有界でないなら、任意の値をあたえられても、それは下界にはならない。ひとたび、ある数より小さくなれば、また、ある数より小さくなる。有界であれば下限へと近づかなくてはならない。
ここで、証明に用いる性質や定理を確認しておく。
① [正の無限大]: 数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が正の無限大に発散するとは以下を言う。
任意の\(M \gt 0\)に対して、ある\(N\)が存在し、全ての\(n \gt N\)について、\( a_{n} \gt M \)が成り立つとき、その数列は正の無限大へ発散する。\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} = \infty\)と表現される。
② [上限]: 集合\(A\)は空集合ではない実数の部分集合とする〘\(A \neq \varnothing , A \subseteq \mathbb{R}\) 〙。そうであれば、\(\sup(A) = \alpha\)となるのは以下を満足するときである。(ⅰ) \(\alpha\)は\(A\)の上界であり、(ⅱ) 任意の\(\varepsilon \gt 0\)が与えられたとき、\(\alpha - \varepsilon\)は\(A\)の上界ではない。\(x \gt \alpha - \varepsilon\)となる、ある\(x \in A\)が存在する。上限は上界の最小なので、最小上界と上限は一致する。
以上の2点を念頭において、単調増加するケースでの証明を行う。単調減少は同様の議論をトレースするだけである。
証明 )
数列\(\left\{a_{n}\right\}\)が単調増加している、ものとする。まず、有界ではない場合を考える。有界ではなく単調増加であるなら、任意の\(M \gt 0\)に対して、ある\(N\)が存在し、\(a_{N} \gt M\)が成り立つ。そして、単調増加であるから、全ての\(N \lt n\)について、\(N = n-1 \)と考えると、\( n -1 \lt n\)であるから、単調の定義により\(a_{n-1} \leq a_{n} \Longrightarrow a_{n} \leq a_{n+1}\)であるから、\(a_{N} \leq a_{n}\)も満足する。すなわち、\( M \lt a_{N} \leq a_{n} \Longrightarrow M \lt a_{n}\)となる。①により、\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} = \infty\)が成り立つ。
次に有界である場合を考える。集合\(\left\{a_{n}\right\}\)は実数\(\mathbb{R}\)の部分集合で上への有界である。\(\bigstar\)実数の完備性公理により\(\sup(\left\{a_{n}:n \in \mathbb{N}\right\})\)が存在する。この上限を\(\alpha\)としよう。\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} = \alpha \)の意味は、任意の\(\varepsilon \gt 0\)に対して、ある\(N \in \mathbb{N}\)が存在して、全ての\(n \gt N\)について、\(|a_{n} - \alpha | \lt \varepsilon\)が成り立つことであった。②より、ある\(N \in \mathbb{N}\)が存在して\(\alpha - \varepsilon \lt a_{N}\)が成り立つ。そして、全ての\(n \gt N\)について単調定義より\(\alpha - \varepsilon \lt a_{N} \leq a_{n}\)である。また、\(\alpha\)は上限で最小上界であるから、\(\alpha - \varepsilon \lt a_{N} \leq a_{n} \leq \alpha\)を示している。ゆえに、\(\alpha - \varepsilon \lt a_{n} \leq \alpha\)である。これは、\(\alpha - \varepsilon \lt a_{n} \lt\alpha + \varepsilon \)をも暗に示している。
これから、\(-\varepsilon \lt a_{n} - \alpha \lt \varepsilon \Longrightarrow |a_{n} - \alpha| \lt \varepsilon\)が成り立つ。以上から、単調増加する数列は有界でなければ、正の無限大へ発散し、有界であれば収束して、その極限値は上限(最小上界)である、ことが証明された。
\(\bigstar\)実数の完備性公理 "The Completeness Axiom" とは、空集合でない集合が実数の部分集合で上に有界であるならば、必ず上限を持つというもの。実数全体が隙間なく連続し上限を持つことが保証される。(Google AI より参照)
このホームページ投稿で有界について、有理数で\(\sqrt{2}\)を引き合いにして、上への有界を論じた。学校で学んだように有理数のみでは穴があり、\(\sqrt{2}\)のような無理数を実数へ組み込んで初めて実数の連続性や収束等を議論できる。集合\(A :=\left\{x \in \mathbb{Q}: x^{2} \lt 2 \right\} \)を観察する。有理数で考えると、例えば\(\approx -1.414 \lt A \lt \approx 1.414\)と表記するしかないだろう。[\(\approx\)記号は近似を表す.]どんどん裾野を拡げていけば値としては右方では大きくなり、何かに近づいているのだが、有理数のままでは不明である。つまり、有理数の範囲で考えると\(\sup(A)\)が存在しない。そこで、実数として\(\sqrt{2}\)を組み込めば、\(\sup(A) = \sqrt{2}\)と言える。平方根存在の定理がある。"もし\(a \in \mathbb{R} \)かつ \(a \ge 0\)であるならば\(\sqrt{a} \in \mathbb{R}\)である。" 実数の完備性公理により、それは実数に存在し、\(\sqrt{a} = \sup\left(\left\{x \in \mathbb{R} : x^{2} \lt a \right\}\right)\)である。
数学では\(\mathbb{N} \Longrightarrow \mathbb{Z}\) \(\Longrightarrow \mathbb{Q} \Longrightarrow \mathbb{R}\)と一から実数の構築を図ってゆくらしい。それを自身が咀嚼できるか分からないが挑戦してみよう。
参考文献:Jay Cummings "Real Analysis" <English Book>