共有地問題

アダム・スミスは個々人の利己的動機に基づき、経済活動を行えば市場の「見えざる手」により、 市場は需要供給法則での市場価格により効率的に機能する、と言った。 しかし、共有地問題は『資源の枯渇』はその利己心が決定的にもたらすと、 1968年のハーディーン論文は警鐘をならした。その論文は論争を呼ぶことになった。 ここでは放牧の例をとって分析する。今、ある村にn人の農夫が従事していると考える。 毎夏に村の牧草地でヤギに餌を食べさせる。 i 番目の農夫が所有するヤギの頭数を\(g_{i}\)、村のヤギ全頭数を G=\(g_{1}\) + --- + \(g_{n}\) とする。 1頭のヤギを購入及び飼育する費用は、一人の農夫が所有する頭数から独立して、定数 c とする。 Gのヤギが飼育され、1頭のヤギを飼育する農夫に与えられる、その価値は1頭あたりv(G)である。 ヤギが生存するには少なくとも、ある一定量の牧草が必要になるので、牧草地で餌を与えうる最大限の頭数値、Gmax が存在する。 すなわち、 G \(\lt\)\(G_{max}\) のとき、v(G)>0であり、G \(\geqq\)\(G_{max}\) のとき v(G)=0である。 さらに、最初のわずかな頭数では、餌場には十分な余地がある場合1頭を増やしても他のヤギにそれほどの害を与える影響は無いが、 すべてのヤギがほとんど生存し得ないほどの\(G_{max}\)の近傍にある頭数の場合、同様の行為は劇的に他のヤギに悪影響を及ぼすことになる。 これを、定式化すると、G\(\lt\)\(G_{max}\)において、v′(G)<0、v′′(G)<0になる。 これを、縦軸v、横軸Gでの平面座標で考えると、曲線の傾きは負であり、傾きの負の勾配がGが増加するにつれて、 増々負になる曲線を持つ。つまり、v′(G)<0は追加的ヤギの増分による1頭当たり価値は下がることを意味し、 v′′(G)<0は追加増分での価値が下がり続けることを意味する。春になると、全ての農夫が何頭のヤギを所有するかを 同時に選択する。ヤギは連続的に分割可能だと仮定する。これは、勿論、数学的操作を意識しての仮定である。 i番目の農夫が取る戦略は、\(g_{i}\)という牧草地で餌を与えるヤギの頭数の選択である。戦略空間が[0,∞)であると仮定することは、 その農夫に興味を覚えさせ得る全ての選択を網羅するが、[0,Gmax)で十分であろう。\(g_{i}\)頭のヤギに餌をやる農夫 i の利得は、 他の農夫により餌付けされるヤギの数が(\(g_{1}\) , … , \(g_{i-1}\),\(g_{i+1}\), …,\(g_{n}\)) の場合、 \(g_{i}\)・v(\(g_{1}\) + ・・・ + \(g_{i-1}\) + \(g_{i}\) + \(g_{i+1}\) + ・・・ + \(g_{n}\)) ― c\(g_{i}\) --- ➀
従って、もし(\(g_{i}^{*}\),… ,\(g_{n}^{*}\))がナッシュ均衡であるなら、 他の農夫らが
(\(g_{1}^{*}\),… ,\(g_{i-1}^{*}\),\(g_{i+1}^{*}\), ... , \(g_{n}^{*}\))
を選択することを所与として、 \(g_{i}^{*}\)が最大化されなければならない。
(\(g_{1}^{*}\),… ,\(g_{i-1}^{*}\),\(g_{i+1}^{*}\), ... , \(g_{n}^{*}\))=\(g^{*}_{-i}\)として、 この最適化の一階条件は
v(\(g_{i}\)+\(g^{*}_{-i}\))+\(g_{i}\)v\(\prime\)(\(g_{i}\)+\(g^{*}_{-i}\))-c=0 ---⓶
⓶はiという一人の農夫の最適化でn人存在するので、⓶においてi=1,2,… ,nとして代入し、\(g_{i}\)を\(g_{i}^{*}\) とみなして、辺々加え、得られた等式をnで両辺を除すと、
v(\(G^{*}\))+\(\dfrac{1}{n}\)\(G^{*}\)\(v\prime\)(\(G^{*}\))― c=0[\(G^{*}\)=\(g_{1}^{*}\)+・・・+\(g_{n}^{*}\)]---③
。 一方で、社会的に最適な解は、社会の利得関数Gv(G)-cGの最大化問題で、解くと v(G)+Gv\(\prime\)(G)- c=0で G**を最適な社会的ヤギ飼育数とすると、
v(\(G^{**}\))+\(G^{**}\)v\(\prime\)(\(G^{**}\))- c=0--- ④
である。 ③と④を比較して、今\(G^{*}\)=\(G^{**}\)と仮定すると、v\(\prime\)(\(G^{**}\))\(\lt\)0で、これは飼育数を追加することでの損失価値を意味しているが、 ③の左辺第2項の係数\(\dfrac{1}{n}\)があることから、社会的損失として最適レベルにあるにも関わらず、 少なくとも1人の個人が追加頭数を増やすことで総価値を押し上げようとするインセンティブを持つことになる。 そうして、結局のところ\(G^{*}\)が\(G^{**}\)を超越する事態が生まれる。「共有地という場としての公共財は各人にとって、 徐々に不足がちになり、そこにある牧草という資源は過剰に利用されることになる。」 という帰結が導出されるのである。 この問題で身近な例としてはクロマグロの国際的資源管理が挙げられよう。地下資源という無機物は宇宙進出を果たすか、 はたまた人工組成で技術開発するかなければ、いつかは枯渇する。しかし、生物資源はライフサイクルが科学的に立証される。 ゆえに、資源管理が適切に処されれば、持続的な市場の維持が可能ではあろう。 我々、欲求動機に基づく利己心はケースバイケースで管理されることの必要性があることを想起しておいてもらいたい。
参考文献 GAME THEORY FOR APPLIED ECONOMISTS : Robert Gibbons 著
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