経済政策論考

二人の男が葡萄酒を担いでいる。その葡萄酒の数量を100単位だとする。一方の男が、喉が渇いたので、ある提案を相手にする。 「今、20円手持ちがあり、それを上げるので2単位分の葡萄酒を飲ませてくれ。」提案された男は了承する。 すると、お金をもらった男も喉の渇きに耐え切れず、やはり20円を払って2単位分飲む。また、最初に提案した男が払って飲む。 それを交互に繰り返して葡萄酒が結局はなくなった。
この事例は経済学の仮説、貨幣数量説の好例である。葡萄酒の数量が実質GDP --- Qに相当し、 \(\dfrac{20円}{2単位}\)=\(\dfrac{10円}{単位}\)が物価 --- Pであり、貨幣供給量 --- Mが20円で、 繰り返された回数50回転が貨幣の回転速度 --- Vと呼ばれる。
20円×\(\dfrac{100単位}{2単位}\) =\(\dfrac{20円}{2単位}\)×100単位、ゆえに有名な恒等式が得られる。

M\(\cdot\)V ≡ P\(\cdot\)Q --- ①

➀における各変数を時間の関数とみて、 両辺について自然対数関数微分をすれば、貨幣供給の増加率 + 貨幣の回転速度上昇率 = 名目物価上昇率 + 実質GDP成長率が 得られる。ここで回転速度が時間的に不変と仮定すると、貨幣の回転速度上昇率がゼロであるから、MがPやQ、 あるいはPやQがMに影響を及ぼすという因果が考えられる。卵が先か鶏が先か的議論になるが起因はその時の経済構造によるだろう。 また、名目物価上昇率は実質物価上昇率と期待インフレ率の和である。 期待インフレはやはり中期的に好景気になると高まることになるだろうが、 実態でのエネルギー価格や円安による輸入インフレも一因になろう。日銀の政策物価目標で原油価格低迷を気にするのは 期待インフレが縮小することを回避したいことにある。
日本経済がデフレであるとは、名目物価上昇率(=実質物価上昇率+期待インフレ率)が下落傾向にあり、 つまりは国内の経済活動が弱い状態を指す。過去にみられた急激な円高による輸出競争力の減退とバブル崩壊による 国内総需要の減少で企業、特に製造業はコストダウンによる国際競争力を高めること、さらなる成長を求めて海外へと 生産をシフトさせた。そうしたことで、当然、国内労働需要は減少し、それに伴い政府の労働政策が大企業を中心とする 経営者らの要求による法改定によって、労働者の雇用形態を非正規労働者へと増加させるに至った。 これにより、個人のマクロの家計所得が減少することで、さらに国内総需要を下方にシフトさせ、 家計の低価格志向への意識を強めさせた。マクロ的にみて、自らの首を絞めたことになってしまった。
上述を起因として現状の日本経済のデフレを解消せしめるには、期待インフレを高めること、 すなわち経済の好況感を国民に感じさせなければならない。日本は今や莫大な借金を抱え、巨額の財政出動、 いわゆる財政政策を行うことは不可能である。本来不況に対処するには財政政策と金融政策のポリシーミックスが必要である。 財政での対策が打てない中、金融政策に主眼をおいて対処するしかない。そして補完的に産業政策、いわゆる成長戦略の遂行である。 つまり、日銀はPに主眼、政府はQに主眼をおくということだ。
大規模な金融緩和によって円高是正を求めたことは仕方のないことだ。通貨安競争だと国際的疑義が生じようとも、 今の日本にはそれしか手段がなかったことだ。円安で国際競争力が戻り輸出増加の起因になり、 企業の海外でのドル建て利益が不変でも所得収支は円ベースで増加する。企業の利益が増加することで、賃金増への原資が生まれる。
賃金上昇が単に経済だけに恩恵を与えるのではない。 やはり社会保障とも密接に絡む。非正規雇用が増加する中、少子化・高齢化による若年層の社会負担の軽減を少しでも抑えようと するには、賃金の増加は必須である。勿論、正規社員としての雇用形態が少しでも増えれば良いが。 また高齢者の社会での積極的活用も考えねばならない。年金との整合性を上手く扱ってほしいものだ。
戻る
カテゴリー