21世紀の資本

私自身はまだ本著を読んだわけでもない。しかし、著者が進言する高額所得者への課税強化に賛成を表明したい。 僕は先物取引を引き合いに出し、現代資本主義の姿に疑問を投げかけた。マクロ経済学にあるケインズが初めて提唱した基本理論で、 実物経済においてフローの投資と貯蓄の均衡がフローの所得を決定する、とある。 投資と貯蓄のアンバランスが財・サービスの超過需要、超過供給をなす。しかし、少数の人間に富が集中すれば、 フロー概念での超過供給が常態化し、ストックが実物経済への悪影響を与えると考えるのは自然である。
財・サービスへと流れる資産が金融資産へと巡っている。金融システム の安定とは何なのか。 基本なのは実物経済に悪影響を与えないよう貨幣の信認の度合いを保持・安定させることである。 そして、経済取引が円滑に進むように銀行システムを安定させることであり、銀行自体の経営の健全化を図ることにある。
ところが、原油等々に代表される先物取引価格の不安定化が実 物経済に悪影響を与えるがゆえに、先物取引価格が安定、 もっと言えば取引が活発化されるようにすべき、というストックとしての貯蓄超過が誉れ、 実態経済ではなく金融経済に重点を置くような資本主義の土台を忘却したような主張がされている。
また、経済学者の中には「現代資本主義に内在した経 済・社会システムにおいての成功は必然であり、 成功できない者は彼らを邪魔するな。貧困者は素直に貧乏を楽しめ。」と過去に辿ってきた資本主義の歴史を看過する意見がなされて いる。我々、社会の所得は能力に応じて分配される機能的分配であり、当然、各人が所属する市場の収益率に応じて決まってくる。 つまりはお金は天から降って湧くものではない。しかしだ。その機能が現実に機能しているかが問題だ。 真面目に働くものがバカを見ていないのかが問題なのだ。
資本主義の原点はイギリスでの強制的な労働者の囲い込みから始まった。資本の蓄積は彼ら無くして始まらなかったろう。 労働者の存在無くして資本主義の存立は 毛頭あり得ないのである。現代資本主義は機能的所得分配での『所得の独占』を許して しまっている感がある。所得の独占に対しての一つのあり得る対策として 累進課税が相当であり、相続税強化が必要であろう。 成功者だからといって所得の独占を社会が見逃してはならない。社会が与える報酬は一定レベルまでは個人の業績として 自由裁量を与え、それを超える額には制限を加えることが肝要である。
資本主義社会の安定は実態経済でフローでの投資・ 貯蓄バランスが上手くいくことにかかっており、 経済成長には労働人口の安定、技術開発がかかってくる。資本主義の発展はシュンペーターが創造的破壊と言った技術革新・発明、 それも当然、需要を喚起する市場に受け入れられるものがあり、さらに労働者所得の増大が年々とあったからである。
これから以後も資本主義が長らえるには、そういった技術革新と労働者所得増大という両輪が回ってゆかねばならない。 21世紀の資本が訴えているのは、我々社会に生み出された所得を実態経済に取り戻す、時間をおくことなく還元させること だと考えている。
ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』の中で、金利生活者を強烈に批判 していたことを、我々は忘れてはならない。

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