バブル以後の日本経済の記述分析 一考察

デフレ脱却と新たなる成長を求めて、いわゆるアベノミクスが実行中である。日本経済がデフレと言われてきたが、 一般国民には分かり易く説明されてきた試しがない。僕自身、深く考察したことがなく、ただ、そうだと感じていたに過ぎない。 自分が論じることが読み手に理解されるか自信はないが、マクロ経済学を学んだ者として以下に試みようと思う。
大蔵省の総量規制に始まった地価の暴落は株式市場へと波及し、株価の暴落へとつながった。経済理論にもある逆資産効果が強烈に 影響し、国内総需要はスーパーショックというほどの減少へと転落する。
理論で乗数効果というものがある。ひらたくいえば、 総需要の例えば100単位の増加は、他の経済的影響が不変とすれば、単に100単位の増加をもたらすのではなく、 数倍の需要増大をもたらすのである。したがって、これの逆のことが生じれば、100単位の減少はその数倍の減少という 負の効果をもたらすのである。通常、乗数には消費、投資、輸出が考えられるが、負の効果での最近の事例でいえば リーマンショックがこれにあたる。米国の著しい景気減速が日本の輸出の激しい減少の起因となり、 負の乗数効果を通じて日本経済の総需要を減退させたのである。
さて、バブル崩壊で企業は総需要の早期の回復が見込めない 中では、最大限の営業努力を実行しても、もはや事業展開が困難であり、早期退職優遇措置(早期退職すればそれだけ 退職金を積み増すこと)や整理解雇、時間外労働の禁止、ベアカット、賞与削減・カット、という労務費削減、 国内投資の先送り・撤回し、間接費用の削減を徹底化した。ミクロ的なものであるなら、さほどの問題ではないが、 全産業で行われれば、上述した消費や投資の負の乗数効果が吹き荒れる。そうなると、輸出が頼みになるが、 これに追い打ちをかけたのが、円の急騰、すなわち円高である。国内総需要の減退と円高が企業の海外進出を加速させた。 国内各事業での以前より在る、余力ある供給体制に見合わない、需要の減退を補うには海外展開も考慮せざるをえなかった。 そして、従来の価格設定では期待売上が見込まれず、家計所得が減少していることが、消費者の低価格志向へと意識を変え、 これに対応すべく相対的に安い賃金の海外に生産拠点を築くことへと企業を行動させた。さらに、円高は海外企業の安い製品、 すなわち輸入品との競合も厳しくした。
総需要の増加に足踏みが続く中、これまでの労働構造を変える法律が施行された。 いわゆる労働者派遣法の改定である。これにより、正規雇用者の対義語である非正規雇用者の増大を生じさせた。このことが、 家計所得のさらなる減少を生み、消費的側面での総需要増大は見込まれなくなった上に、バブル崩壊以前に日本が国際経済において、 内需拡大への経済構造転換の約束が不毛となった。
以上、記述分析してきたが、要約すると、家計所得の減少、 新規国内投資の減少による財やサービスに対する総需要の減少、円高等が日本経済のデフレ要因となったのであろう。 最近論じられるようになった生産人口減少による総需要減少問題は20年前には考えられなかった要因であり、 これはデフレ解決いやそれよりも経済成長にとって新しいリスク要因になっている。
アベノミクスは金融の異次元緩和により、 円高を是正し海外企業との競争を少しでも緩和し、かつ為替リスクのあるドル建て損益を益化し、企業のキャッシュフローを健全化し、 労働者の賃金上昇の原資とし、その増大が総需要の増加を生み出し、企業の国内での期待売上を助長し、新規投資を誘発させ、 さらに総需要を増大させる、という車輪を回し価格転嫁が自律的に経済に組み込まれることを狙ったものである。そして、 企業の財政基盤を盤石として、将来有望な事業へと経営資源を向けさせる成長戦略を企図している。
しかし、東日本大震災以後、 福島事故によるエネルギー問題が暗い影を落とす。原発の稼働停止による主として火力発電への転換は円高是正もあって、 予想どおり大きな貿易赤字をもたらしている。短期的なものであるなら、不安ではないが、現在、巨額の借金を抱える財政状態には 脅威である。僕は以前、原発廃止を訴えた山本太郎氏に賛同(100%ではない。)の意を表したが、あくまでも長期的な意味での 廃止論である。過去に貿易赤字と財政赤字という双子の赤字で、苦しんでいた米国の姿は覚えている。大部分の国民が現状以上の 生活水準を望むのであれば、より経済的合理性を踏まえて判断されることを望む。貿易赤字が経常状態になれば、 金融市場での円の信頼度が低下し、信頼度が低下すると日本国債の人気が無くなり、もし、信頼低下前に海外投資家の国債保有率が 大きくなっていた場合、日本国債の売却が始まり、国債価格の減少、すなわち長期金利の上昇を生むことになる。 そして、日本財政は破綻への道に突き進むことになるだろう。


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