消費税増税に伴う価格上昇についての一考察

消費税分の価格上昇は当然、価格上昇は伴うので、ここでは増税部分以外の価格上昇、即ち純粋な価格の転嫁について考察する。 閉鎖経済とし、ここでの増税は全て消費税の増税とする。
消費税額は企業が産み出す付加価値に消費税率を乗じて求められる。
付加価値とは企業の産出額から原材料や加工材料費等を差し引いたものである。残る付加価値が労務費、その他間接費、役員報酬、 配当(オープンカンパニーの場合)、企業のその他投資金、消費税以外の税金、企業の剰余金、引当金へと配分される。
価格転嫁が生じるとすれば、最大の事因は労務費であろう。増税に伴う付加価値の減少は企業のキャッシュフローの減少であるから、 キャッシュフローに占める労務費の相対的度合いが増大する。従来の価格設定のままでの、これに対する企業行動はどのようなものが 列挙されるであろうか。

  1. 非正規社員の雇用割合を増大させる。
  2. 正規社員の給与ベース、労働時間(特に残業)の見直し
  3. 諸経費のコストカット(新規投資案件での想定額も含めて)
  4. 減価償却のストップ

等々が挙げられるだろう。

消費者サイドでは、所得の増加や消費行動に増税が影響を与えないほどの所得のストック(貯蓄や資産ストック)が無ければ、増税分の価格上昇により、購入数量すなわち需要量を減少せざるを得ないだろう。そうなると、企業では増税によるキャッシュフローの減少、さらに消費減退による売上減少によるキャッシュフローの減少というジレンマに陥ってしまう。この観点からして、上に挙げた企業行動は現実味を帯びる。一つずつ観ていこう。
非正規社員の割合を増やすことは、正規社員の解雇あるいは降格処置としての勤務形態の変化が考えられるが、労働法に対するコンプライアンスから考慮すると相当の困難が伴う。正規社員の給与カットは社員の士気に影響し、労働へのインセンティブを奪うことになるだろう。全社的な経営不振が明白でない限り、組合が存在する場合、相当の抵抗を受けるだろう。そうすると、困難なくやれるとすれば、それら以外の列挙した方策となる。問題はそれら方策を通じて増税分のキャッシュフローを賄えるかにある。
こうして、総じてみると、最後に行き当たるのが価格転嫁となる。しかし、上述したように需要の減退は明白である。更なる価格転嫁は更なる需要減退を生み、それによる、さらなる売上減少に企業が直面というジレンマからトリレンマに自ら陥る可能性もあり得る。企業間の価格転嫁は交渉のパワーバランスであり、転嫁が実行されるかは不明である。これは事業が独占状態にあれば転嫁は行われやすいだろう。なぜなら、競争状態であれば相手の動向を伺う、いわゆる睨み合いが続くと考えられ、独自の価格転嫁は相手に有利なカードをきることになる。だがこれは、需要の価格弾力性が1より小さいと当該企業が判断すれば、転嫁による値上げは増収を意味する。ただ、そのリスクをどう判断するかによるだろう。
また、中小規模の企業では大企業と違って増税は間違いなく 相当の痛手である。地方密着型企業であって、競争企業の存在が希薄であれば価格転嫁はされ易いのではないかと考えられる。
総合的に考えると、キャッシュフローに余裕のある、あるいは資産ストックの豊富な企業は短期的には価格転嫁は行動には 織り込まないだろう。しかし、そうでない企業は価格転嫁も視野に入れながらも、実行動に移すことに踏み出すには時間がかかる のではなかろうか。ミクロ的には価格転嫁はあり得ても、マクロ的に価格転嫁による物価上昇は個人的には、さほどはないと考える。


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