基本の経済性工学

数学が役にたつのか?長年、数学に劣等感や嫌悪感を抱いてしまった人が持つ自問である。 理系に進む人はそうではないだろうが。けれども、これほど個人がパソコンを持つようになっても、 そのような問が出てくるのは驚きである。数学、それも論理数学を数学者が考えていたからこそ、 コンピューターに進展があったのに。車と同じように、その技術は一般人には見えず、利便性のみが強調されるのと同じだろう。 車の設計に非線形微分方程式が使われていることが知られないように。 日常生活にかかわる時間と利率の関係を論じて、具体的な応用数学の技術を少々、紹介しよう。
ここで、論じるものは経済性工学という分野である。 Pを現価、Sを終価とし、nを考察期間、iを計算利率(複利方式)として、終価を求める演算式を以下のように表現する。 \[ \biggr[P \to S\biggr]_{n}^{i} \] この記号の背後にある考え方は簡単で、現価と考察期間(通常、年間)と計算利率を与件として、期間と利率から 生じる係数 (終価係数)を現価に乗じると、Sが求まるということである。つまり、右側の数値を求めるには、左側の文字の値、 期間、計算利率 のデータが分かればよいとなる。係数は自前で計算する必要は全くなく、ネットで係数表が手に入るだろう。 また、4種類の未知数と考え、3種の与件が確定すれば、方程式を解くことになる。
ここで、複利方式での終価係数 の一般項を求めてみよう。
\begin{align} &\large第0年期初残   &P \ \cdots\cdots\cdots \ &P(1 + i)^{0} \\ \\ &\large第1年末残高 &P+Pi\ \cdots\cdots\cdots \ &P(1 + i)^{1} \\ \\ &\large第2年末残高   &P(1+i)+ iP(1+i) \cdots\cdots\cdots \ &P(1 + i)^{2} \\ \vdots \\ &\large第n年末残高   &P(1 + i)^{n-1} + iP(1 + i)^{n-1}\ \cdots\cdots\cdots \ &P(1 + i)^{n} \end{align}
\[\biggr(1 + i\biggr)^{n}\]が終価係数の一般項であり、i, nのそれぞれの値のパターンで三角関数表のような係数表ができる。
そして、その係数の逆数が現価係数であり、上記の数式を用いるなら、\[ \biggr[S \to P\biggr]_{n}^{i}\]と表現される。
さて、例えば、200万円を金利1.5%で10年後の残高は?
終価係数は\((1 + 0.015)^{10}\)≒1.16054で、ほぼ232万円となる。 ただ、ひとつ諫言すれば、インフレ率を考慮していないので、この価値は名目であって、実質ではないことに注意はしておこう。 それが資本主義社会である。それゆえ、定期預金の他に投資選択があり、稼得期待される資産の目減りを回避するなら、 そういった経済環境要因を考慮に入れる必要があるだろう。 脱線したが、話を戻して、現在の232万円を考えたときに、現行インフレ率が年率1.5%であり10年続くと見込むと、 10年後の価値は?お分かりのように200万円である。定期預金では利子分が増えるが、インフレは逆に、 その分の貨幣価値を減価してゆくのである。 また、10年満期で金利1.5%のとき、満期で232万円にしたいとき、元金をいくらにするか?200万円と なる。紹介した係数のほかにも数種ある。資本回収係数、年金現価係数、年金終価係数、減債基金係数である。
このような技術は、僕も企業に就職して、自ら図書を購入し勉強したものである。 言っておくが、大企業のサラリーマンは先輩社員からの全てを教えてもらうわけではなく、自らが必要と思うことに自己投資している。 もちろん時間を含めてだ。
さて、何故、高校数学で登場しなかったのか、と疑問を感じたことがある。 大部分の数学教師は純粋数学をやってきたので、応用数学に手を出して教えるには知識不足になるとも言えるかもしれない。 数学以外のジャーゴン(専門用語)も必須になるからである。しかし、一国民としては、受験数学に重きを置いて、 自然科学のみを題材にした問題だけを扱うだけでなく、生活にかかわる題材を数学で教授すべきであると考えている。 そうすることで、数学へのネガティブな見方も少しは変わってゆくのではないだろうか。
僕自身経済学を学んでいる時ふと思ったことがある。社会科学でこれほど数学ツールを用いるのに、中高の練習問題では理数系の 問題ばかりが、なぜ、これほど目立つのであろうか?と。数学が生活の足しにもならずと考え、毛嫌いになる者が多いのに。 社会と連関した問題を織り交ぜることはできないものなのか?その意識を持ったまま、14年前の36歳のときアメリカの数学 テキストはどうなのだろうかと、紀伊国屋書店ネットビジネス部より以下の原書本を購入した。 今、手元にある。COLLEGE MATHEMATICS WITH TECHNOLOGY。答えの部分を除いて、1062ページもあり相当分厚い。 価格は本体、税抜き¥13,830(うわ、高、よく買ったな!我ながら)。アメリカでは高校での数学内容が落ちると 聞いていたので、大学クラスを購入してみたのである。数学内容を列挙してみると、

  1. 初等関数の再復習
  2. 有限数学[金融数学・線形計画法・確率・マルコフチェーン]
  3. 微積分[導関数・グラフと最適化・多変数関数における全微分、偏微分、積分、 二重積分・微分方程式(1階線形微分方程式のみ)]

大学の本だが、カラー文字をところどころで用い、グラフも散りばめ、 ポイントどころをきちんと押さえ注意を促している。問題数も多いが、副題にFOR BUSINESS,ECONOMICS,LIFE AND SOCIAL SCIENCESと あるように問題を区別化し、応用面として「ビジネスと経済」に絡む問題を用意している。本書は1997年に初版が発行されている。 日本では考えられない、文系には良いテキストに見える。
この本はアメリカの高校2年生と同等の代数に対する能力を持つ学生を 対象にしている、とpreface(序文)に明記してある。日本の高校生のテキストをもっと社会と連関させるように工夫するべきだ。 デジタルにしたからといって、数学に嫌悪する生徒が減るわけではない。


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