F聖なる地

 

フィニッシュ後抱きかかえられるようにして、完走チェックに連れて行かれる。途中“気分はどうだ?”と聞かれたので、ジョークのつもりで“バッド”と答えると一瞬ボランティア3人の表情が固まった。

“体調が悪いのか?”と再び聞いてくるので“問題ないジョークさ”と答えると、“これだけ走れば悪いのも当然だ”と笑いが戻った。

メダル、完走Tシャツをもらい、ゲートのところに戻り次々と帰ってくる選手を見つめ、2004アイアンマンのフィナーレを待つ。

DJによるカウントダウンが始まり、12時ちょうど。1年間にわたる2004年のアイアンマンシリーズは幕を閉じた。

柵によりかかりじっとしていると妻が寄ってきた。

“なんで、ビクトリーロードは入ってこなかったの?”と問うと、

“入れなかった、いや、入ってはいけないと思った。帰ってくる選手を見ていて、あの場所は226km走った人でなければ入ってはいけない、走った人にだけ許される聖なる地のように感じて、私が最後だけ走って汚してはいけないと思ったから。”と答えた。

妻は妻なりにこの大会の雰囲気を感じ取っていたようである。

私もコナの地に入ったときから感じていたのだが、この大会はやはり特別である。言葉でうまく表現できないが他のアイアンマンとは全く違う、なんとなく神々しい雰囲気が漂っている。

私は滞在中ずっと、“私なんかがこの大会に出て申し訳ないという気持ち”でいっぱいであった。正直を言って、コナに着てからは嬉しいという気持ちは全くなく、ずっと申し訳ないと思い続けていた。

そう思わせる雰囲気がこの大会そしてこの地には漂っていた。

正式な大会は終了したのだが、まだ帰ってくる選手がいるので、多くの観客はゲート付近に残っている。時間外とはいえ、選手が帰ってくるたびに大きな歓声と拍手が起こっている。

1230分がバイクの回収期限とされているので、私はバイクや荷物をすばやく引き取りホテルに向かう。

途中、浜島さんと一緒になる。“今回のレースはきつかった”と彼も言っている。やはりアイアンマンハワイ。いずれの人にも簡単には完走させてはくれなかったようだ。

あとでわかったが、腹痛と嘔吐の原因は水であった。うっかり水道水を飲んだのがいけなかったようだ。やはり私同様、水で吐いたりした選手は多かったようである。スイムからあがってホースの水をごくごく飲めば体調を崩すのも当たり前である。

また、エイドのコップの水も、たまに水道水があり飲まないほうが良いとのことである。全て大会後に判明した。